カタハラのイタシ、ワタシ   夢野住人



  勢いよくカーテンを開けると、澄んだ朝の日差しが全裸の私をつらぬく。そのあまりのすがすがしさに、私は思わず目をつむってしまった。くらくらする。散らかった部屋。玄関を見ると、きっと気に入っていたのであろう履きつぶされたスニーカーは、もうすでになくなっていた。机の上に無造作に置かれたケータイをチェックすると、コウスケからメールが届いていた。そのあまりに情けない文面を見て、私はまるでワイドショーで取り上げられた芸能人の恋愛事情に対して、コメントするおばちゃんみたいな気分になった。今さらながらすごいことをしたなあと他人事みたいに思って、ケータイをベッドに投げ捨てる。シャワーを浴びようと思った。
  昨日、飲み会の帰り、私とコウスケは酔いつぶれたハルナを家まで送り届けた。といっても、ハルナを背負っていたコウスケを横から見ているだけだったけど、私はそれだけでよかった。隣にコウスケがいる時間は、いつだって特別だった。暗い路地をぼんやり照らす橙色の街灯は、私だけをくっきり浮き上らせる。コウスケは、ずっと一緒だった。でも、今は違う。どうして?  そんなことを繰り返し考える。そして、私はハルナを送り届けると、タガが外れたように彼と体を重ねていたのだった。コウスケは何を思ったのだろう。ハルナは親友だ。ちょっとどんくさいことが特徴の平凡な女。能天気で何も考えちゃいない。そしてコウスケの彼女だ。親友にずっと好きだった人を取られる気持ちを、きっとハルナは知らない。そして私の向ける好意にも気づいちゃいない。私が言わなかったからだけど。私はハルナのその無邪気さがずっと腹立たしかった。
  風呂から出ると、私は鏡を見て身だしなみを整える。まつげはビューラーを使わなくても、つんと上向きで整っている。切れ長の目はどこかなまめかしい。化粧水をつけた手で叩くと弾む肌は、みずみずしくうるおっている。そして、背中まである長い髪はトリートメントを使わなくても、指をさらりと通すだけでゆるやかにほどける。
  部屋を簡単に片づけて窓を開けると、つんと乾いた北風が頬をなでる。乾燥してぴんと張りつめた空気が針となって突き刺さる。昨晩私を包みこんでいた言いようのないほてりは、風に乗ってどこかへ消え去ってしまったようだった。ふと思う。誰か知らない人が、私の事情を知ったらどう思うだろうか。コウスケはきっとは私のものにはならないだろう。でも確かなことは、過ちを犯すたびに私は美しくなっていくということだ。