慕情詩四篇   たぬ吉ポンポン



   八つの情

ふるさとの
杉の小径は暗かりし

涼しく羊歯を踏み抜け
苔生す石に足掛け
来し野辺の花
ちいさきふぐり可愛しく
白無垢がごと君影草

つらつら椿朶を手折り
そをば嗅ぎ
たらたら坂を吾れ上り
夕に燦たる二荒をば
誰れに見せたき
彼れに見せたき

ふるさとの
少女のまみは黒かりし



   十八の情

ひょろ長の脚の並
あまき髪のこう
振見てよ
つや黒みぐし
未だかたからん錐の房
未だやわならん蹠
十五十六十七の
おとめの羞恥あれよかし

たなごころのぬくとさ
擦りつ抱きつ
乳の香よ
われ涙ぐむ
早やかたからん蹠
早ややわならん錐のふさ
三十路女と見ぬまでに
たらちめの許赦もてよかし



   上谷にて

淡き五月の夏なりき
青き昧爽しのび往く
二人もて

頤閉ずる葎ある
つんのめったる急勾配
かたぶき様に歩きたる
打っ付くかいな柔らかく
寝くたれのくし羞じ笑う
われ先達に二人もて

これ見付けたる吾園よ
罅煉瓦なす水道橋
乳いろの水垂らすまま
顔なくて手ばかり拝む地蔵尊
比して新なるおべべかな

見るに無邪気に
少年の如清潔に
恋すれば
みな目細しと思いしか
その二人もて



   初恋の

人知れず
破瓜のうれしき涙あり
味寝の床に契りあり
妊り強き母とはなりき

初恋の君廿九に
わが君は十四の儘に